今回はちょっとマニアックな内容です。
メタル系ギタリストで電気設計屋の私が三味線をエレキ化する発想は当然でしょう。
エレキ三味線は三味線かとうさんの『夢弦21』やコスモ楽器さんの『虎寿茂エレキ三味線 BEN-TEN MT-1』など既に存在します。また、エレキ化キットとして、ピエゾ(圧電素子)ピックアップを貼り付けてアンプなどに繋ぐための商品も見受けられます。
上記の商品自体使ったことはありませんので良し悪しの判断は当然できません。貧乏サラリーマンに買う余裕もありません。更に今現在必要な訳でもありませんので、イチから研究していきたいと思います。
できれば、三味線の発音構造分析などの根本的な部分からじっくりと研究するつもりです。(途中で飽きなければ…)
三味線の集音
コンサートなどで演奏する場合やレコーディングする場合、当然、三味線の音を拾う必要があります。通常はマイクを使うでしょう。
そのマイクによる集音も三味線の場合、結構難しい様です。私の好きなブログ『Shinさんの工作室』に関連する投稿があります。1132 :定番マイクじゃ無理 ! 「津軽三味線」の野外PA(SR)
マイク以外で集音するためにはピックアップ(これもマイクの一種ですが)を使うことになります。最大のメリットは『演奏者が動ける』点でしょう。
アコースティックギター(以下、アコギと表記)のピックアップ(以下、PUと表記)が参考になります。
アコギのPUには『マグネット式』『ピエゾ式』『コンデンサマイク式』が有り(他にもあるのかな?)、その単独もしくは複数のミックスで使用されます。場合によっては更にPU+マイクによる集音(オフマイク)ミックスなども有ります。
ここで三味線は糸(弦)が金属製では有りませんので『マグネット式』は使えません。
PUの選択肢は『ピエゾ式』『コンデンサマイク式』の2択になりますが、アコギでの経験上、最終的には『併用になるのでは?』と予想しています。
ピエゾPUって?
ピエゾPUは直径2~3cm位の円形部品をボディー(三味線の場合、胴や革など)に両面テープで貼り付けて、ケーブルをアンプなどに繋ぐだけで使えますので最も手軽なPUです。
アコギでは既製品を使った事はありますが、電気設計の素子としては未体験なので色々と調べました。
簡単に言うと『音の振動を電気信号に変える。』と言う事になりますが、設計者としては何が?どうして?どんな風に?って感じで仕組みや特性が気になります。
仕組みの概略は
電気的にプラスとマイナス端子になる2枚の金属板に圧電体(セラミック)を挟んだ構造で振動(実際にはゆがみ?たわみ?)によって2枚の金属板に電位差が生じる。(発電する。)
電気に詳しい方ならピンと来たかと思いますがコンデンサマイクの仕組みに似ています。
ピエゾPUは既製品で数千円で変えますが、ピエゾ(圧電)素子自体は数十円で買えます。
ピエゾ素子の特性を調べる
今回の企画は以前から予定していたので手元に複数のピエゾ素子が有りました。そこでこれらの電気的特性を調べてみたいと思います。
調べたのは
圧電スピーカー(圧電サウンダ)SPT08 (2個入) 100円
圧電スピーカー(圧電サウンダ)SPT15 100円
そして唯一の既製品
以前、仁木三味線さんや優宝さんで扱っていたエレキ三味線マイク オンキョー技術研究所さんの商品です。
インピーダンス特性
最近では良い測定機があるんですよ!
Digilent社のAnalogDiscovery2はさまざまな機能を持った万能計測器で、1台でアナログ・ディジタル信号計測/信号可視化/信号発生/記録などが可能です。
■機能■
●2chオシロスコープ(14bit100Mサンプル/秒,30MHz)
●2chファンクションジェネレータ(±5V,14bit,100Mサンプル/秒,20MHz)
●AWG信号出力ステレオオーディオアンプ使用(ヘッドホンorスピーカ)
●16chロジックアナライザ(3.3VCMOS,100Mサンプル/秒)
●16chパターンジェネレータ(3.3VCMOS,100Mサンプル/秒)
●16ch仮想デジタルIO(ボタン,スイッチ,LED)(ロジックの勉強用)
●2入力/出力ディジタルトリガー(マルチメータとリンク)
●1ch電圧計(AC,DC,±25V)
●ネットワークアナライザ対応レンジ:1Hz~10MHz
●スペクトラムアナライザnoisefloor,SFDR,SNR,THD,他
●ディジタルバスアナライザSPI,I²C,UART,Parallel
●±5VDC電源
これにAnalogDiscovery用インピーダンスアナライザーを付けて測定するだけなんです。
早速見てみましょう。
細かくて分かりづらいと思いますが、低周波はインピーダンス(以下、Zと表記)が高く、高周波に向かって低くなります。更に4kHz~7kHz付近に共振点が見られます。
7BB-27(村田製作所製)のデータシートを参考に見てみますと共振周波数4.6±0.5kHzをあります。測定グラフの緑色ですので一致しています。
ピエゾを切断するとどうなる?
色々調べていたときに興味深い記事を見つけました。
オリジナルのPUを製作されているギタリスト・酒井 誠ーさんのブログの『29.TSピックアップ・システムの製作工程』と言う記事です。
(酒井誠一さんのブログから引用)ピエゾ素子を切ります。丸いままですと固有振動が生じ耳障りな高音が出ますので、試行錯誤の結果です。
同様にオリジナルPUを製作されているギター工房Resonance Guitarsさんのブログ『FIND the ストローク DEOEMON』の『DEOクリアPU増産中』と言う記事では
(ギター工房Resonance Guitarsさんのブログから引用)円形のPUは市販品でもよくありますが、もともとブザー用の素子なので、かなり高い特定の周波数で共振するように作ってあって、円形のままだと広いレンジをフラットに再生するのに向きません。短冊形にカットして共振周波数を下げ、さらに選定した基台に貼り付け、配線材をハンダ付けします。(途中省略)ちなみにプロの方でも、ブラス部分だけをカットして「共振周波数を・・・」とネット上でおっしゃっている方を見つけたことがありますが、セラミック部分までカットしなければ充分な効果は得られません。
なるほど…やってみよう!
FGT-15Tを切ってみました。赤色が最初の状態、橙色が金属板のみを切った状態です。ギター工房Resonance Guitarsさんが言及されている通り共振周波数は変わりません。セラミックを切った状態は青色です。確かに変わっています。
ここで先程の村田製作所さんのデータシートを見てみますと、セラミックの直径が大きくなるほど共振点は低くなり、セラミックの厚みが厚いほど共振点が高くなることが読めます。
すなわちセラミックをカットすると共振点が高くなると言うことです。ギター工房Resonance Guitarsさんの解釈と相違があるようです。
まぁ、理屈は理屈と言う事で両先輩とも実際に製作・使用してみてより良いと思われている方法ですので参考にさせていただきます。実際振動を拾う面積が変わるわけですし、特性変化が見られる訳ですから音にも影響があると考えて間違いは無いと思います。
ただし、気になるのはスピーカーなどが何故、円形なのか?楕円形なども存在はしますが…まぁ、それも最終的な音の好みとして影響するのかと…
まぁ、この辺は追々実際に音で確認しながら検証したいと思います。
コンデンサの特性に似ている
先程、構造がコンデンサマイクに似ていると申しましたが、インピーダンス特性も似ているんです。
7BB-27(橙色)とフィルムコンデンサ0.012uF(青色)の比較です。共振の有無以外はほぼ同じです。
と言うことはコンデンサマイク(Electret Condenser Microphone 以下、ECMと表記)の様に初段を高抵抗で受ければフラットな周波数特性で使えるのでは無いか?
ピエゾの増幅回路
回路シミュレーターLTspiceを使ってシミュレーションしてみます。
ピエゾのモデル
ピエゾの等価回路と測定結果から村田製7BB-27のモデルを作成してみます。
位相特性に違いは出ましたが大体似たような感じなのでこれでOKとします。
初段回路 入力インピーダンスの違いによる特性変化
適当に初段をFET回路で組んで入力インピーダンスによる周波数特性変化を見てみます。
ちなみに高域は後段のLPFで落としています。(カマボコに見えるように!)
まずは一般的オーディオレベルの10kΩ→もろにインピーダンス特性の影響が出ています。
では100kΩ→ちょっとマシになりましたが低域不足と共振点の影響が見られます。
ギターアンプなどの入力インピーダンス1MΩでは→かなり良くなってきました。少し共振点が見えます。
コレでどうだ!2.2MΩ→良いね!
もちろん、PU特性がオーディオ特性で良いとは限りませんが、まずはフラットな状態を知っておく必要がありますので…と言う内容です。よって、現在PU製作をされている諸先輩方の否定記事ではございませんのでご了承ください。
今回はここまで!興味の無い方には何のことやら?でしょうが、最後までお付き合いありがとうございました。
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